俺の為の嘘


 イベント好きは認識してるし、賑やかで楽しい事は大好きだ。
愛のイベントなんて言われると、俄然張り切ってしまうのが悪いくせだとしても大目に見てくれたっていいじゃないか。

 折角のバレンタインなんだから!

 主張した端から、王泥喜は呆れたように視線を寄越す。大きな瞳を半分まで下ろして斜めに落ちる視線は零下の視線だ。
「アンタがまとわりついてくるのは、いつもの事でしょ?」
 何を今更と、苦々しい表情で響也を見つめる。
 違うと声を大にしていいたい。王泥喜が好きだからこそ、普段から側にいたいだけ。今日はバレンタインという特別な(愛)を告げる日だからこそ、王泥喜とイチャイチャしたい。
 この違いがどうして目の前いるオデコにはわかって貰えないのだ!
胸に込み上げてくる憤りを、どう言葉にしたら王泥喜に叩きつけることが出来るのかと、響也は無駄に良い頭を回転させた。そうして、一通りのロジックを組み上げる。
 さあ後は、相手に告げるのみと顔を上げれば王泥喜が笑った。

「じゃあ、普段の牙琉検事は俺に対して本気じゃないんですね。」

 何処か意地の悪さを滲ませつつ、にっこりと微笑む。
「今度はどうして、そうなるんだい!?」
「だって、イベントだからって普段とは違う行動をするんですから、そうでしょ?」
「だから、それは…!!」
 一応営業時間内の、全く鍵がかかっていない状態の扉に面した机の上で、王泥喜は響也の胸ぐらを掴んだ。
 素早く正確に、そして一切の抵抗を許さぬ力で引き寄せる。重なった唇が交わすのは深い口づけだった。
 相手の口腔を堪能し、王泥喜はぺろりと舌を舐めあげる。童顔のくせに、その表情は妖艶だ。
 口元を抑え、赤面したまま沈黙する響也にただ笑う。

「俺はいつだって本気…ですよ?」

 王泥喜はそう告げて、机の引き出しから丁寧に包装された包みを取り出した。
「装飾に関しては俺自身なかったから、みぬきちゃんに手伝ってもらいましたけど、中身は手作りですよ?」

 折角のバレンタインなんですから。

 そう括られて、響也は完全に言葉を失った。



 これが、響也にホワイトデーに仕返しを決意させた出来事だっけれど、この時点で主導権を握っていたのがどちらだったのか、それを把握していなかった彼は確かに負けていたのだろう。
 3月14日にノコノコとお返しのクッキーと仕返しの算段を胸に王泥喜の自宅に向かった響也が返り討ちにあったのも、想定範囲内には違いない。



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